米国の商業不動産市場に、興味深い変化が出てきています。
CoStarが7月31日に報じた最新データによると、2026年第2四半期の米国商業不動産価格は、全体では前期比わずか0.1%の上昇となりました。
つまり、米国商業不動産全体が本格的な価格上昇局面に入ったという状況ではなく、まだ「底這い」に近い状態が続いています。
しかし、ここで注目したいのがリテール(商業施設)です。
今回のデータでは、リテール不動産の価格上昇が商業不動産市場全体を下支えしました。一方で、マルチファミリーなど一部のアセットでは価格の弱さも見られており、不動産の種類による差がかなり明確になってきています。
「商業施設は厳しい」は、もう過去の話?
一時期、米国ではAmazonをはじめとするEC市場の急成長によって、「ショッピングセンターの時代は終わるのではないか」とまで言われていました。
確かに大型百貨店や旧来型ショッピングモールの中には、現在も厳しい状況に置かれている施設があります。
ところが、すべてのリテール不動産が弱いわけではありません。
特に強いのが、スーパーマーケット、ディスカウントストア、飲食店、医療、美容、フィットネスなど、日常生活に密着したテナントを中心とするショッピングセンターです。
Cushman & Wakefieldの2026年第2四半期レポートによると、米国リテール不動産の空室率は6.0%と歴史的にも低い水準を維持しています。
さらに、募集賃料は前年同期比2.2%上昇し、1平方フィート当たり25.65ドル。第2四半期の新規供給はわずか230万SFで、現在建設中の物件も既存ストックの0.3%未満にとどまっています。
つまり、新しいショッピングセンターがあまり建設されていない一方、既存の優良商業施設には引き続きテナント需要があるという状況です。
特に強い「生活必需型リテール」
最近の米国不動産市場を見ていて、私が特に注目しているのが、
Grocery-Anchored Shopping Center(スーパーマーケットを核テナントとするショッピングセンター)
です。
景気が多少悪くなっても、人は食料品を買います。
レストランにも行きますし、美容院、クリニック、フィットネスなど、インターネットでは代替できないサービスも利用します。
Cushman & Wakefieldも、現在のリテール需要について、特にGrocery(食品)、Discount(ディスカウント)、Health & Wellness(健康・ウェルネス)などの生活必需型業態に需要が集中していると分析しています。
これは、現在の米国商業不動産を考えるうえで非常に重要なポイントだと思います。
賃料上昇は鈍化、それでもファンダメンタルズは強い
もちろん、リテール市場にも注意点があります。
CoStarによると、2026年第2四半期の米国リテール募集賃料の前年比上昇率は1.6%まで低下し、10年以上で最も低い伸びとなりました。
ただしCoStarは、これを需要の大幅な悪化というよりも、これまで急速に上昇してきた賃料が正常化している過程と分析しています。
特に人通りの多い優良な商業エリアでは空き店舗が少なく、テナント入れ替え時には依然として大きな賃料上昇余地があるとしています。
つまり、
「どんな商業施設でも値上がりする市場」ではなく、「良い立地・良いテナントを持つ商業施設が評価される市場」
になってきているのではないでしょうか。
米国不動産は「何を買うか」がますます重要に
2026年の米国商業不動産市場を見ると、単純に「米国不動産価格が上がるか、下がるか」という議論だけでは十分ではなくなっています。
オフィス、マルチファミリー、物流施設、ホテル、リテールでは、それぞれ市場環境が大きく違います。
さらに同じリテールでも、大型モールと、富裕層住宅地にあるスーパーを核としたショッピングセンターでは、投資商品としての性格が全く異なります。
最近、多数の売却案件が届いていますが、特に注目しているのは、スーパーマーケットを核テナントとする物件、生活密着型ショッピングセンター、そしてマクドナルドなど信用力の高いテナントが長期入居する物件です。
金利がまだ高い現在だからこそ、単純な価格上昇を期待するのではなく、
「誰がテナントなのか」
「その場所に長期的な需要があるのか」
「賃料を上げられる余地があるのか」
「新規供給がどの程度あるのか」
を見ることが非常に重要です。
米国商業不動産市場は、まだ全面的な回復局面とは言えません。
しかし、その中でもリテール、特に生活必需型の優良ショッピングセンターには投資資金が戻り始めているようです。